マーロウの言葉を追いかけて――『湖中の女』を読んで
村上春樹の小説やエッセイを読んで、レイモンド・チャンドラーに興味を持った。
村上訳のチャンドラーを読み、それからフィリップ・マーロウが登場する作品を次々に手に取った。『湖中の女』は、その頃に読んだ一冊だ。
何作も続けて読んだせいか、この本だけの筋を細かく思い出すのは難しい。
マーロウが化粧品会社の社長から、姿を消した妻を探してほしいと頼まれる。そう聞くと、「ああ、そんな話があったかも」と思う。
けれど、事件の順序よりもはっきり残っているのは、マーロウを読むのが楽しかったという感覚だ。
危ないところへも入っていく
マーロウは、相手が誰かによって簡単に態度を変えない。
危ない目に遭っても、依頼を投げ出して引き返すわけではない。その振る舞いがかっこよくて、次の作品も読みたくなったのだと思う。
『湖中の女』では、行方不明の妻を追って湖のある町へ行き、そこで別の女性の遺体に行き当たる。
一つの依頼から、思いもよらない事件へ入っていく。先に何があるか分からなくても調べ続けるマーロウの姿は、シリーズを読み進める楽しさにもつながっていた。
事件を解決する探偵だから好き、というだけではなかった。人との向き合い方や、その場で返す言葉まで含めて、マーロウという人物を追っていた。
訳から原文へ
マーロウのセリフには、立ち止まって読み返したくなるものがあった。
翻訳の言い回しが少し気になると、英語の原文を探して確かめることもあった。
「ああ、やっぱりそう訳すか」と思ったり、「そういう含みだったのか」と納得したり。英語の短い言葉の響きを味わって、一人で感心したりもした。
意味を確認したいときもあれば、ただ言葉の調子をもう少し感じていたいときもある。気になり方は、そのセリフごとに違った。
そうやって原文まで見たくなったのも、マーロウの言葉が好きだったからだ。
『湖中の女』だけを取り出して、結末や細部について語れるほどには覚えていない。
それでも、この本を手に取った頃のことは覚えている。村上春樹からチャンドラーへ進み、マーロウの態度や言葉に惹かれて、何冊も続けて読んだ。
物語の先を知りたいのと同じくらい、次はマーロウが何を言うのか楽しみだった。
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湖中の女