『柔らかな頬 上・下』を読んで · 読書感想
真相が見えないまま、残ったもの――桐野夏生『柔らかな頬』を読んで
桐野夏生さんの『柔らかな頬』を読んだのは、当時話題になっていたからだったと思う。
その頃は桐野さんの作品を続けて読んでいて、この上下巻もその中の一つだった。個々の作品の印象は、今では少し混ざっている。
それでも、この本の謎を追いながら読んだことと、全体に漂う不穏な空気は残っている。
消えた子どもを追う
物語の中心にあるのは、北海道の別荘で姿を消した幼い娘・有香だ。母親のカスミは娘を捜し続ける。
失踪したとき、カスミは家族に隠れて別の男性と会っていた。娘に何が起きたのかを知りたいという思いと、母親自身が抱える後ろめたさが重なる。
やがて元刑事の内海も捜索に加わる。何かを見つけてほしいと思いながら読み進めても、すぐに確かな答えは見えてこない。
答えのように見えるもの
下巻では、有香の失踪について「こういうことだったのかもしれない」と思わせる筋道が、登場人物の夢や想像の中に現れる。
そのたびに真相へ近づいた気がする。けれど、想像を事実として受け取ることはできない。先を読みたいのに、読み進めても落ち着かない。
読者としては、どれかを答えにしたくなる。けれど、可能性をひとつ選べば、それで有香が見つかったことになるわけではない。
今、どの場面で何を感じたかまで思い出せるわけではない。当時の読書体験として覚えていることと、あとから内容を確認して分かったことは分けておきたい。
確かに覚えているのは、答えを求めて読み進め、結局、真相は自分の中で謎のまま残ったということだ。